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不思議世界 No.1

 唐突だが、僕は不思議な生き物を見たことがある。それはツノの生えた猫だったり、顔のない女の子だったりと様々だ。そんな不思議で奇妙で奇天烈な生き物を見て生きてきた僕は、気が付けば高校生になっていた。なんというか、ありきたりだけどこの話の主人公は僕であり、その主人公は高校生なのだ。ベタなライトノベルなんかにありそうな設定だ。しかし僕の周りに可愛い女の子なんていない。ましてやハーレム状態ですらない。これもフラグではない。何も面白みのない、しいて言えばさっきの不思議な生き物が時々見えるくらいの人生だ。


 髪を切ろう、僕がそう思った時には男子高校生にしては長くだらしのない髪型になっていた。前髪は頬の辺りまで伸びて、襟足は肩の位置より伸びていた。こんなだらしない姿で今まで学校に行っていたと考えると寒気がする。
 そもそも、なんで髪を切ろうと思ったのかと言えば、何気なくいつもより早くシャワーを浴びて、何気なくお風呂場の鏡を覗いたことが始まりだった。最初は大して意識していなかったが、見つめているうちに、自分の髪が男子高校生にしては著しく長いことに気付いた。急いで体を洗って、風呂場を出た。長い故になかなか乾かない髪をドライヤーで乾かそうと躍起になり、十分が経過した。髪を乾かすのもほどほどにして、着替えると急いでコートを着て家を飛び出した。
 寒空の中、上着のポケットに手を突っ込んで歩く。空気が乾燥している冬は嫌いだ。なんだか気温の低下とともに、僕のやる気まで下がっていくような気がして動くのも億劫になる。
 寒さに震えながら床屋まで歩く。床屋までの結構な距離と外の寒さで、すこし駆け足になる。周りを見渡せば、たくさんの人が居た。相変わらず世界は喧騒にまみれていて、うるさく人通りの多い広い通りを歩いていると、世の中は狭くても色々な人が居るんだと実感する。不幸顔をしたサラリーマンや、化粧の濃い女子高生、ホストの怖いお兄さんとか。でも人間なんてものはヲタクとかリア充とかそういった大雑把な括りで簡単にカテゴライズすれば二極化したような意味のない存在になるのだろう、なんて考えては頭の中の妄想を取り払った。
 僕はリア充でもヲタクでもない、平々凡々な一般的な人間だと思う。趣味と言えるものも少なく、特技なんてこれといってない。交友関係なんて今まで同じ学級になったことのあるクラスメイトくらいだし、携帯のアドレスもさほど多くない。至って普通の、さえない男子高校生だと自負している。学業の方は概ね優秀。運動は苦手だけどできないわけではない。恋愛だって実ったかどうかは別として告白されたことも、告白したこともある。いつだって何も面白みを求めず一般的な人間として務めてきた。しかし、僕には普通ではない所もある。中二病的であり、僕のコンプレックスでもある。それは本当にいらない能力であり、僕の普通たらしめる部分を根こそぎ破壊してしまうのだ。

 僕が最初に人ではない者を見たのは、小学生の時。親しかったクラスメイト達と公園で遊んでいた時のことだった。夕暮れが顔を覗かせて辺りが徐々に暗くなり始めた時、僕達は広場で遊んでいた。サッカーか野球をしていたと思う。クラスメイトの一人がボールを遠くに飛ばしてしまった。僕と友達が二人でボールを追いかけ、ジャングルジムのあるスペースに向かった。ボールはジャングルジムの下に転がっていて、僕達は下に潜ろうと近付いた時、僕は歩みを止めた。入り組んだジャングルジムの頂上に黒い服を着てフードをかぶった背の高い人影が見えたからだ。そいつは僕をじっと見つめ、静かにフードを脱ぎ始めた。友達は気付いていないのか、ジャングルジムに駆け寄っていく。
「あ……」
 僕は思わず声を漏らした。フードを完全に脱いだその人影の頭は、犬の頭だった。人面犬なんてものをSFフィクション作品なんかでよく見るけど、これじゃあ犬面人だ。唖然とした僕をよそにその犬面人は口を大きく開けて、唾液をボタボタ零しながらジャングルジムの下を潜る友達に近付いた。

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